酒人を飲む
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(酒は百薬の長)と言うが、同時に、(酒は百毒の長)なることわざもある。(一杯(ばい)は人酒を飲む、二杯〈にはい〉は酒酒を飲む。三杯(ばい)は酒人を飲む)とも言われてきた。凡人には、酒の飲み方は難しい。 首都圏の大学で数日前、男子の新入生が急死した。居酒屋で開かれたオリエンテーリング部のコンパに参加し、二次会の会場で昏睡状態で横になっているのに周囲が気付いた。救急車で病院に運ばれ、死亡が確認された。一気飲みまではしなかったようだが、コンパでは泥酔者が何人も出たらしい。大学当局は、各サークルの責任者らを集め、「コミュニケーションの手段を酒の力に頼りすぎるな」と注意したという。
アルコールは脳の働きを麻痺させる。呼吸を司る部分まで麻痺すると、死に至ることがある。ゆっくり飲んだ場合は、量を過ごすと気持ちが悪くなって、それ以上は飲めない。ところが、急激に過度に飲むと、自己防衛の機能が作動する前に、一気に危険な状態に陥る。昨年は全国で少なくとも5人の新入生、新入社員が、急性アルコール中毒で命を落とした。
歓迎といっては酒、歓送でも酒、めでたければ酒、「残念」ならなおさら酒、何かというと酒、が日本の組織の風習だ。 「俺の杯(さかずき)が受けられないのか」と目の据わった輩(やから)が酒を強要する。酒の上での乱行、失敗を反省する時も、酒に頼る。つまり、コミュニケーションの手段はもっぱら酒。若者も、学生時代にすでに、その風習に染め上げられる。
と言いながら、実は私も酒の誘惑にはからきし弱い。自戒を込めて以上の文を書き、自戒を込めて「酒に酔って、公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」の第2条(じょう)を読み返す。 (すべての国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない)。